真夜中の静寂に寄り添う音楽ービル・エヴァンス編

Music

僕が初めて聴いたビル・エヴァンスのアルバムは「Waltz for Debby」。ピアノトリオのこのアルバムは間違いなく彼の最高傑作であり、NYのヴィレッジ・ヴァンガードでLIVE録音されたその日限りの奇跡の演奏。このアルバムはもう数え切れないぐらい聴いてる。

でも真夜中に聴くなら異色のアルバム『From Left to Right』がおすすめだ。1970年に発表された当時は実験的な作品として片付けられ、生粋のエヴァンスファン、ジャズファンからは全く評価されなかった作品。ジャケットからわかるように、SteinwayのピアノとFender-Rhodesのエレピを両手で同時に演奏するというスタイルや多重録音という手法が斬新すぎて理解されなかった。またオーケストラとの共演がイージーリスニングのようで軟弱とも揶揄された。結果この後エヴァンスがこのようなアルバムを作ることがなかったという意味では唯一無二の作品と言えるし、もっと評価されるべきだと思う。何と言ってもRhodesの音色があまりに優しく、切なく、幻想的な響きですらある。美しいボサノヴァ・ナンバーの「The Dolphin」という曲も秀逸。アルバム全体を通して映画のサントラを聴いているようでもある。真夜中にひっそりと、そして夏から秋に移り変わるこのちょっと寂しくなる季節にぴったりのBGMだと僕は思う。