ディーター・ラムスの機能的で美しいプロダクトに宿る “Less but Better” の哲学

Things

昔のブラウン製品が大好きだ。正確に言うと僕が最も敬愛するデザイナーであるディーター・ラムスがブラウンのデザイン部門を率いて生み出してきたプロダクトがとにかく好きでたまらない。

ブラウンに在籍した1995年までの約40年間に500を超える名作を世に送り出したディーター・ラムスのデザイン哲学は“Less but Better”(より少なく、しかしより良く)。オフィス機器からキッチンツールに至るまで彼がデザインするものは一貫している。決して主張するデザインではなくミニマルで削ぎ落とされているのに、完璧なまでに機能的で美しい。ラムスが提唱している良いデザインの10か条にある「良いデザインは慎み深い」「良いデザインは可能な限りデザインをしない」まさにその言葉通り。スーパーノーマルで知られるジャスパー・モリソンや深澤直人、アップルのジョニー・アイブなど時代を牽引するデザイナーでラムスの影響を受けていないデザイナーなど一人もいないだろう。最近購入したものをはじめ僕が所有しているお気に入りのブラウン製品をご紹介したい。

壁掛け時計

ベッドルームの壁掛け時計を何にするか、それは絶対に妥協できない問題だ。なぜならそれは毎日起きて最初に目にするものだから。それがグッドデザインでないと僕の一日のモチベーションが上がらない。それでコンディションのいい「ABW21」という時計をずっと探していた。1979年発売のこの時計は直径が14㎝と小さく、我家のベッドルームの壁にちょうどいい大きさ。状態のいい昔のブラウン製品を探すとき必ずチェックするのは「Supervion」と「BRICKS」のサイト。もちろん一点ものだしこればっかりは縁とタイミング次第。そしたら最近ようやく目当ての時計が「Supervion」に入荷していたので即購入した。黒の文字盤に黄色の針という組み合わせが白い壁に映える。妥協しないで良かった。

「ABW21 Type4833」

シェーバー

3年ほど前に買ったブラウンの電気シェーバーをうっかり落下させ調子がおかしくなって買い替えを検討し始めた。量販店に行って国産メーカーやフィリップスには目もくれずブラウンのコーナーに直行し最新機種をチェックする。もちろん機能的には文句なし、でもどうしても欲しいと思えない。現行のハイテク仕様のデザインにラムスの哲学を感じないのだ。かといって昔のブラウンのシェーバーを買えるわけがないし、、いや待てよ、ネットオークションという手があるか。そしたらこれまた運よくデッドストックのブラウン製品が出品されていて「5586」という型番の未使用品を見つけ無事落札。ブラウンのシェーバーが一番カッコよかった1990年代の製品。これはもう手に入らないだろうから大切に使い続けようと思う。


計算機

ブラウンの代表的なプロダクト。復刻版も発売されているので目にする機会も多いだろう。初代iPhoneの計算機アプリのデザインがあまりに似すぎているということで話題になった。僕が使っているのは1987年発売のブラウン初のソーラーバッテリー搭載の人気モデル「ETS77」。デザイン変更後のiPhoneアプリは全く普通のデザインになってしまったので、僕のデスクにはブラウンの計算機が常駐している。

アラームクロック

グッドデザインに囲まれていることの効果は“自分を上げてくれること”と本気で思っている。だから自分にとって心地よいと思えないものは極力周りから排除する。その代わり自分が好きなデザイン、機能的でストレスなく使えるものを厳選している。アラームクロック然り、我家の各部屋とトイレにはブラウンの時計が置いてある。シンプルな文字盤は視認性がよく、慣れ親しんだアラーム音は僕の体内時計と連動している。ちなみに「DB10sl」というユニークな形のデジタル時計は25年程前に購入したものでかなりレアではないかと思う。もちろん今もちゃんと動いている。

左から「AB7」「AB1」 「BNC005」(2015年にSupremeとコラボした「AB314rsl」の復刻)

「DB10sl」

84歳のいまなお精力的に活躍し続ける伝説の存在、ディーター・ラムスの軌跡がついにドキュメンタリー映画となる。人との交流があまり得意ではないという理由からラムス自身に焦点を当てた本格的な映像作品はこれまでほとんど制作されなかった。この映画の監督は2007年に大成功したインディーズ映画「ヘルベチカ〜世界を魅了する書体〜」を撮り、次の「Objectified」という作品にラムスが出演したのをきっかけに意気投合したというゲイリー・ハストウィット氏。監督自らが募ったKickstarterではすでに資金が集まっていて、映画作りのためだけでなくラムスのデザインをアーカイヴとして保管するためにも使われるという。映画の完成は1年後の予定、今から楽しみで仕方ない。