『東京ひとり歩き ぼくの東京地図。』岡本仁

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僕の憧れ、嗜好、価値観のかなりの部分はマガジンハウスの雑誌で培われたものだ。その中でも特に好んで読んでいた雑誌に例外なく「岡本仁(ひとし)」という編集者が関わっていると知ったのはだいぶ後のこと。つまり僕が影響を受けていたのは、実はこの類い稀なる名編集者自身だったというわけだ。

その岡本氏の最新の著書『ぼくの東京地図。』はまさに氏の真骨頂を発揮したワクワクする内容で読み終えるのがもったいないほど面白い。「東京」という街を独特の視点で切り取り、巧みに編集し、僕らにその奥深い魅力と楽しみ方を教えてくれる。さっそくこの本を片手にまだ訪れたことのない場所を、いや、いつも通っているはずの道をさしたる目的もなくぶらぶらしたくなる。というか、各エリアの描写がリアルすぎて、まるで実際に案内されて一緒に連れて行かれている感覚になる。ちなみに僕のホームタウン「渋谷」は氏が友人のフードエッセイスト平野紗季子さんと一緒に歩くという形で紹介されているが、マメヒコ宇田川町店の裏口からセブンイレブン店内を通り神山通りに出て東急本店へ行くというマニアックすぎる抜け道とか、東急本店から入って高低差をうまく利用しながら文化村から出てくるルートとか正直「やられた」という感じ。渋谷のことなら知り尽くしていると自負していた僕だが、まだまだ甘いなと思い知らされた(笑)。それからこの本の表紙に「ポスタルコ」のマイク・エーブルソン氏が2009年に制作した京橋の地図が使われているのも印象的だ。当時はまだ「ポスタルコ」のショップが京橋の古いビルにあって、見知らぬ誰かのために手描きで近隣の案内地図を作ったというエピソードが『ぼくの東京地図。』の原点に繋がっているような気がする。

なんとこの本の刊行記念として岡本氏とエーブルソン氏が「東京」をテーマに語り合うトークイベントが5月4日に神山町の「SPBS」で開催される。編集者とプロダクトデザイナーというそれぞれの分野において僕が最も感化されている両氏が「東京」のどこに着目し何を語るのか、じっくりと拝聴するまたとない機会が本当に楽しみだ。さてと、この本でしっかり予習してまずは近所の馴染みのエリアからぶらぶら歩くとするか、、。

岡本仁氏著書


追伸:トークイベント終了後のサイン会にて