我家の “柔らかい光” を作る照明器具
装丁家の坂川英治氏の著書に「『光の家具』照明」という本がある。照明は家具の一部であり、というより部屋の雰囲気を左右するという意味では最も重要な家具であり、居心地の良い部屋には必ずいい仕事をしている照明がある。
僕はホテルがとても好きで、旅行以外にも自分をリセットしたい時や現実逃避したい時に泊まる。僕の中での断トツのランキング1位はパークハイアット東京。最高のサービスはもちろんだが、ルームサービスの料理の美味しさ(ホテルに籠る時これは重要なポイント)、眺望の素晴らしさ、そして心底リラックスできる空間づくりの巧みさでは他のホテルの追随を許さない。ミニマルでクリーンな空間、しつらえたオリジナルの家具、シックでセンスの良いグリーンの内装、そしてあの隠れ家的な雰囲気を演出する暗めの照明。ホテルの部屋が落ち着くのは柔らかい光をほどよく回し、必要な場所にポイントの間接照明を配していることによる。もちろんパークハイアットの部屋を自宅に置き換えることは不可能だしそっくり真似ることもできないが、心地よさのエッセンスなら自分の部屋に取り入れることはできるし、そこそこの投資で劇的な変化をもたらしてくれるのが照明なのかもしれない。
というわけであまり参考にならないと思うが、我家の照明をご紹介したい。
LOUIS POULSEN / PH5
ダイニングテーブルの上のペンダントライトは定番中の定番『PH5』。建築家でもあるポール・ヘニングセンによってデザインされたのが1958年、50年以上たつ今でも世界中で愛されている。ヘニングセンが作り出そうとしたのは一日のうちで最も美しい黄昏時の暖かい陰影のあるトーンの光。それはテーブルの上の料理を美味しく見せ、それを囲む家族の表情をいきいきと映し出す。また美しいフォルムはどんなインテリアとも相性がよく、我家のダイニングで使用しているイームズの椅子との組み合わせもすごく気に入っている。
LOUIS POULSEN / AJ Wall
ルイスポールセンつながりで。リビングの一角にあるデスクコーナーの壁に取り付けたのはアルネ・ヤコブセンがデザインした『AJ WALL』。元々はヤコブセンが1959年にコペンハーゲンのロイヤルホテルを設計した際に名作「エッグチェア」や「スワンチェア」と共にデザインしたものでフロアランプやテーブルランプが有名。この壁付タイプがあるのを知ってどうしてもデスク用に取り付けたくてリノベのとき真っ先にリクエストした。
FLOS / GRO BALL
現代の最も好きなデザイナーの一人ジャスパー・モリソンの究極にシンプルでミニマルなフロアランプ『GRO BALL』をリビングの一角に配置。調光器付きなのでリビング全体を明るくすることも、コーナーだけうっすら浮かび上がらせることもできる。正円ではない少しだけつぶれたような丸いフォルムがどこか有機的な感じがして、何ともいえない人間的な暖かい優しい光で包んでくれる気がする。
FLOS / MISS K
こちらも大好きなデザイン界の巨匠フィリップ・スタルクのテーブルスタンドをベッド脇のサイドテーブルに。電源をオフにしているとスタンダードな形、オンにすると内部のシェードの形状が浮き出して全く違った印象になるという二面性を持たせた驚きのアイデアはさすがスタルク。ちなみに『Miss K』とはスタルクの娘さんの名前に由来しているそう。
北欧を代表する建築家2人と現代を代表するデザイナー2人の作品でそれぞれ扱っているメーカーも同じという意外性の全くない組み合わせになってしまったが、やはりいいものはイイということで。
最後にジャスパー・モリソンの言葉で締めたいと思う。
よい製品とは短いスパンではなく、何年たっても使い続けてもらえるような、謙虚で静かな、そして暮らしの中で便利な道具である。