渋谷の『JBS』で未知の音楽を浴びるように聴く

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その店は道玄坂を上りきり246へと繋がる道を左に曲がって少し進んだ途中の雑居ビルにある。店名の『JBS』はJazz, Blues, Soulの頭文字から。だから厳密に言うとジャズ喫茶とも違う。ここはブラック密度の濃い音楽を浴びるように聴ける至福の場所だ。

店に入った途端、ほぼ全ての壁を埋め尽くすよう設置されたラックに整然と並ぶ1万枚のレコードの物量にまず圧倒される。そして全てのレコードの場所は店主小林氏の記憶と完全にリンクしていることに驚く。常連客ならその好みを察知してレコードはチョイスされる。初めての客なら勇気を出して小林氏と言葉を交わせばそこから何かを察してセレクトしてくれるかもしれない。もちろん小林氏の無尽蔵なデータベースから構築されるその日のプレイリストに身を任せるのもありだろう。基本的にはレコードの片面ずつを2台のトーレンスのプレーヤーで交互にプレイしていく。毎回訪れる度に初めて出会う名盤に感動する一方、その音楽やミュージシャンを今まで知らなかったことに愕然とする。最近はヒップホップのルーツに興味を持つ若者たちがソウルやフュージョンを聴きにやってくることも多いそうだ。あと海外からの音楽好きなゲストも絶え間なく訪れる。いつも思うことだが、世の中にはまだ一度も聴いたことのない音楽が無数に存在していて、というより自分の知ってる音楽なんて海岸の一粒の砂粒ぐらいのものだってこと。仮に僕がこれから毎日この店に通って24時間聴き続けたとしても、ここに存在する全部のレコードを聴き尽くすことはできないだろう。そんなことを考えていると芸術を愛し極めようとする人間という存在の儚さや不条理みたいなものを実感する。だからこそ今という時間を大切にしなくてはいけないし、そして改めて思うのは“音楽”というのは人間に与えられた素晴らしい賜物だということだ。ささやかな抵抗かもしれないが『JBS』という場所がある限り、僕はまだ知らない音楽との出会いを求めて訪ね続けるだろう。