これが予測不能の現実『カルテル・ランド』の衝撃

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最近あまりドキュメンタリー作品を観ていなかったので渋谷のイメージフォーラムに久しぶりに足を運んだ。話題の映画『カルテル・ランド』を観るためだ。

メキシコ社会で強大な力を持つカルテル(麻薬シンジケート)と武装自警団で反撃する住民との抗争に密着したドキュメンタリー。“悪”と戦うため武器を手にして立ち上がった“正義”の市民の物語。いや構図はそんなに単純ではなく、撮影者の予測を超える形で現実が暴走していく。力を持った自警団は統制を失い、やがてカルテルと同じような組織へと堕ちていく。政府や法が守れない“正義”の曖昧さ、善と悪が複雑に絡み合う境界線、人間という存在の弱さと恐ろしさ。メキシコでは麻薬が完全に一つのビジネスとして確立しているという事実からしてとっくに“正義”は存在していないともいえる。メキシコの混沌と混乱をここまで生々しく晒した命懸けのドキュメンタリーはとにかく圧巻だ。監督のマシュー・ハイネマンがインタビューで答えていたけれど、彼はスペイン語がわからないらしく、だからこそ時に状況を把握できないまま最前線に同行しあの映像を撮れたらしい。まさに怖いもの知らず。製作総指揮は「ハート・ロッカー」の監督キャスリン・ビグロー。