『Ryuichi Sakamoto: CODA』鑑賞
素晴らしいドキュメンタリー。僕のようにYMOや坂本龍一が音楽的原点といえるほどに影響を受けていないとしても間違いなく琴線に触れる珠玉の作品だ。
スティーブン・ノムラ・シブル監督の構成が秀逸。冒頭の東日本大震災の津波で海水をかぶったピアノで演奏される「戦メリ」のシーンから心を鷲掴みにされる。膨大なアーカイブを全く飽きさせることなく巧みに繋ぎ合わせ、まるで教授と同じ時間・空間を共有しているかのような錯覚に陥る。中咽頭ガンの闘病以降、自身の命の有限を意識し丁寧に暮らす日常の何気ないシーンに親近感を抱きつつも、テクノロジーによってつくられた音ではなく“自然の音”を求めそれを作品に昇華させていく制作過程に稀代の音楽家としての信念と執念を感じる。この映画を観てから最新作「async」を聴くと、教授の採取した「音」が意味を持って響いていることに気付く。全てがつながり自分の中で納得できた。