SPBSのZINE『アヒルストアのヴァラエティブック。』

Books

渋谷神山町にある出版社兼ブックストア「SPBS」へは定期的に足を運んで最新の書棚をチェックしている。ここにしかないレアな本やリトルプレス、ZINEとの出会いを求めて。

つくづく僕は本屋が好きだ。そこで過ごす時間、感じる気配や匂い、初めて出会う本との対話。大好きなレコードショップで“掘っている”感じに近い。今や奥渋のランドマーク的な存在、このエリアが注目され始める前の2008年にオープンして以来通っている「SPBS」のセレクトはかなりユニークで、特にアート、デザイン、旅、食、サブカル系に強い。ガラスで仕切られているだけなので店舗の奥にある編集部が丸見えという空間構成が実に斬新で、企画・出版機能を併せ持つ書店であることをアピールしている。こういう演出がたまらない。定期的に発行される「Made in Shibuya」というシリーズのZINEを毎号楽しみにしているのだが、その第18弾が発売されたので購入した。タイトルは『アヒルストアのヴァラエティブック。』富ヶ谷にあるビオワインと自家製パンが売りの超人気ワインビストロ「アヒルストア」にフォーカスした一冊。奇しくも同じ2008年オープンのSPBSとアヒルストア、ジャンルは違えど共に個性的な店作りでファンを増やし奥渋を魅力的なエリアに盛り上げてきた同士のような関係とリスペクトが誌面に溢れている。ZINEといっても手作り感のある簡易なイメージのものとは全くの別物、その巧みな編集力によって今の空気感というか、そう“グルーヴ感”がビシビシと伝わってくるのだ。このワードはアヒルストアの雰囲気を形容する時にもよく使われる表現。ちょうど旬のカッコイイ音楽に時代の波長と合ったグルーヴがあるのと同じように、店作りや情報発信の手法においても今どきの気持ちよさのヒントはこの“グルーヴ感”にあるのではないかと何となく思った。余談だが、このZINEに収められている元ピチカートファイヴ小西康陽氏のコラムが秀逸なのもそのグルーヴにひと役買っている。完全限定250部、手に入れたい人は急ぐべし。

渡辺P紀子氏コラム「東京で一番愛されるワイン酒場の始め方と続け方」より

この広い東京にゴマンと店がある中で、ひとりの人間が触れ合える店は、ほんのわずか。そんな中〈アヒルストア〉と出会えた人はシアワセである。ワインがいい、空間がいい、店主始めスタッフの心意気がいい、パンがいい、料理がものすごーくいい。そして、値段はお手頃だ。ひと言でいえば「センスがいい」に尽きるのだが、トータルバランスが抜群にいいのだ。それは、店主が何を目指しているかが明白だからだろう。