『吉岡徳仁 スペクトル』展での貴重な体験

Art-Design

“銀ブラ”とは銀座をぶらぶらするという意味ではなく、銀座のカフェーパウリスタでブラジル珈琲を飲むというのが語源だと知ったのがつい最近のこと。だが目的を決めずにぶらぶら歩いていると思わぬ体験ができるのも銀座の面白さだ。

そんなわけで資生堂ギャラリーで開催中の吉岡徳仁氏の『スペクトル』展に予備知識もないままふらっと入ってみた。デザイン、アート、建築など幅広いジャンルで世界的に活躍中の吉岡氏のことはもちろん知っているが、今回のインスタレーションについてはノーマークでたまたま出会うことができた。地下のギャラリーに続く階段を降りていく途中からうっすらと霧がかかり、日常の時間と空間から非日常へのトリップが始まる。目の前に現れた巨大な空間を幻想的に照らす柔らかい虹の光線。奥の壁面に取り付けられた200個の三角柱のクリスタルガラスを透過した光はランダムな4000もの虹となって空間のあらゆる場所で無数の表情を見せる。自分が見ているその瞬間のスペクトルは自分だけに見えるもの、隣の人が見ているものとは異なるスペクトルなのだ。カタチを持たず絶えず変化する七色の光線は神秘的でその空間にいるだけで究極に癒やされるのだが、同時に僕らの日常に当たり前に存在する「光」や「色」というものへの畏敬の気持ちや自然の恩恵に対する謙虚さを忘れてはいけないと訴えかけているようにも感じる貴重な体験だった。